反射的に逃げた。
なんで、なんであの男がここにいるんだ!!































私には前世の記憶がある。もう100年以上前のことだ。

私と、宇髄天元という男は鬼殺隊という組織の同期で、所謂、犬猿の仲というやつだった。
会えばケンカ、話せばケンカ。とにかくケンカが多かった。
派手好きだし、嫁3人もいるし、めっちゃ絡んでくるし、最初はとにかく気に食わなかった。
でも悔しいことに、私はいつの間にか、宇髄を好きになってしまっていた。それを言うつもりはなかった。墓場まで持って行こうと決めていた。
そして、彼は同期の誰よりも強かった。きっと将来、柱になるだろうと確信していた。
だから万が一、彼に何かあったら自分が盾になろうと決めていた。彼を失う損失の方が大きいはずだから。






そして、その”万が一”は来てしまった。ああ、私はもうすぐ死ぬんだ。
薄れていく意識の中、宇髄が何か言っていたが、もう聞こえなかった。瞼を上げることもできない。



「・・・・す・・・、き」


墓場まで持って行くはずだったけど、その直前で呟いてみた。一瞬の気の迷いだったと思う。
きっと、その声は小さすぎて、宇髄には聞こえていなかっただろうけど――――。





























そしてなんと私はこの時代に転生し、楽しく現代ライフを送っていた。
この馬鹿みたいに平和な時代で、友達と遊んだり、恋愛をしたり。
それからいよいよ大学に入学し、楽しいキャンパスライフを満喫し始めていた。



しかしその時は突然やってきた。



食堂でお昼を食べた後、食器を返却していたら、ふいに隣にやたらとデカい男が来て、同じように食器を返していた。
何故か気になって見てみると、確実に見覚えのある男だった。一気に記憶が湧き上がってくる。


宇髄天元



咄嗟に走って食堂を出た。


そして冒頭に戻る。

















なんで!?なんで、なんで、どうして!?人口1億人以上いるこの日本で、なんでここで会う!?
あいつは私を見た瞬間、驚いたように目を見開いていた。
おそらく、いや間違いなく私を覚えている。冗談じゃない!
たぶん聞こえてなかったとはいえ、あんな言い逃げみたいな告白をしておいて合わせる顔がなさすぎる!もう二度と会わないと思っていたから言ったのに!

とにかく逃げ切れ。今逃げ切ってしまえば、このだだっ広いキャンパスで会う確率なんか極めて低い。



しかしそんな考えは甘かった。


突然腕を掴まれ、近くの空き教室に引きずり込まれた。














「俺から逃げるなんて1000年早ぇんだよ」


宇髄だ。私が好きだった男が目の前にいる。
その瞬間、全身が沸騰するように熱くなるのが分かった。


「…もしかしなくても、私のこと、覚えてるんだよね?」
「あんな愛の告白する奴、忘れるわけねえだろ」
「へっ?」


あ、あいのこくはく・・・?告白って、え、あれ?ま、まさか・・。




「えぇぇ!?あれ聞こえてたの!?」
「俺様の耳を舐めんじゃねえよ」
「いや、忘れて!今すぐに!!」


聞こえていたなんて。あれが聞こえていたなんて!恥ずかしすぎる!穴があったら入って上から土被ってそのまま埋葬されたい!
頭が追い付かない。とにかく宇髄から逃げたい。でも掴まれた腕はそのままで、さらに力が込められて動けない。



「忘れるわけないだろ。お前のこと、1度たりとも忘れたことなんてねぇよ」
「いや、悪かったと思ってるよ!あんな後味悪い告白して死んじゃってさ。墓場まで持って行くつもりだったんだよ!」
「そういう意味で言ってんじゃねえよ」
「ほ、ほら、お互いもう生まれ変わって新しい人生歩んでるわけだし?サラッと水に流してさ」
「なまえ」
「っ!!」


名前を呼ばれてドキリとした。そのまま壁際に追いやられて、いよいよ逃げ場がない。宇髄の顔が近づいてきて、熱っぽい瞳で私を見ている。



「俺があれから、どんな思いで過ごして来たか分かってんのか?」



お互いの息遣いが伝わるほど近い。この雰囲気を、今の私は十分くらい知っている。それでも認めたくなくて、抵抗をやめなった。


「そ、そんなの分かるわけないでしょ。だって私死んじゃってたんだか、んぅっ!?」



突然唇が重なった。噛みつくように、何度も。なんでよ、なんでキスなんかするのよ。
息ができくなるくらい、長く、何度も口付けられた。別に初めてなわけじゃないのに、ファーストキスのときみたいにドキドキする。

ようやく解放された時には、体に力が入らなかった。



「な、なんなのよ。まさか私がまだアンタのこと好きだとか思ってるの?あれから何年経ったと思ってるのよ。この時代に生まれてから何度も恋もしたし、彼氏もいた。大学入ってまた彼氏作って、楽しいキャンパスライフを送ろうと思ってたのに。なんでまた」


一気に捲し立てながら涙が出た。
そう。私はもう昔の私じゃない。記憶はあっても、この時代を生きる別のみょうじなまえだ。
なのにまた私の前に現れて、私をかき乱していく宇髄に、腹が立って仕方がなかった。

そんな私に、目の前のこの男は言ってのけたのだ。






「お前、自分の顔鏡で見てみろよ。俺様のことが好きで仕方ないって顔してるぜ」
「っ!?」





そうだよ。そんなことは分かってる。
これまでも恋愛はしてきた。全部本気だった。
でも、宇髄を見た瞬間、ぶわりとあの頃の感情が湧いてきた。私はこの男が好きなのだ。
好きで好きで溜まらない。本能が求めていた.。認めざるを得なかった。















でも余裕綽々の宇髄に、素直に自分の気持ちを伝えるのが悔しかったので、ヤツの胸倉を掴んで、思いっ切り引き寄せ、今度はこちらからキスしてやった。











ひどく驚いた顔をしたので、ざまぁみろ、と思った。